基地局がなくっちゃ始まらない

5Gが普及する上で避けて通れないのが基地局の整備である(ローカル5Gは除く)。5Gの本領を発揮する高周波数帯は、電波の到達範囲が狭く、壁などを屈折して届きにくい。これを解決するためには、1つの基地局がカバーする範囲(メッシュ)を細かく切り、基地局の数を増やさなければならない。これがスモールセルの考え方だ。

9月16日付の日経新聞によると中国ではすでに15万基の5G基地局が整備されている。またPWCのレポートによればアメリカの4G基地局数は約20万基で、5Gに対応するにはその4倍の約80万基の基地局が必要としている。(出典・ https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2019/assets/pdf/small-cell1908.pdf?fbclid=IwAR3Lsc5g-RGMQwwYuM6dWXTxRA02EV7lZPlWjjwLz8ojSIKkhGv_MVaC9fE

ではここ日本で、純粋なスタンドアロン環境(4Gと5Gが混在しない環境)を実現するためには何基の基地局が必要か? アメリカとはスケール感が異なっているが、現在の日本の4G基地局数はおよそ57万基という報告がある(出典・ https://businessnetwork.jp/tabid/65/artid/6909/page/1/Default.aspx?fbclid=IwAR2LHSSm2SrCccPOaBge6CWNMgUPE6gv-yX2aimZubqWCrKmOGoDIoH1Bcg

そして今年5月の総務省の発表資料では、”5G用周波数の特性上、1局でカバーできるエリアが小さく、従前の「人口カバー率」を指標とした場合、従来の数十倍程度の基地局投資が必要となる”としている。仮に投資額≒基地局数として試算すると、57万基の10倍、500万基以上の5G基地局が必要という試算だ。(出典・ http://www.soumu.go.jp/main_content/000587659.pdf
そこまではいかないにしても、アメリカと同等の約4倍で考えると、約230万基は必要ということになる。

現在大手キャリア4社が政府に提出している整備計画によれば、2024年度までに7万基の5G基地局整備を目指している。だが7万基では全国をカバーした完全な5Gエリアの実現には程遠い。導入を加速するため、国は補助金制度を用意し、山間部や過疎地域などの人口密度が低い地域などを対象に5G基地局整備にかかる工事費用の2分の1から3分の1を負担する方針だ。キャリア同士も共闘し、5G基地局の相互利用を図る動きがある。

総務省発表「第5世代移動通信システム(5G)の現在と将来展望」2019.5.17より抜粋

 

ここで生まれてくるのが「基地局特需」だ。

巨大な需要に対して如何に効率よく基地局を製造・供給できるか? コンパクトかつ高性能、そして災害に強い基地局を実現するためにあらゆる要素技術の革新、生産技術の革新が必要だ。通信インフラに関わる製造業にとっては未曽有のビジネスチャンスが広がっている。

何よりも基地局技術は大手キャリアのネットワークに依存しない「ローカル5G」にもそのまま生かすことができる。多くのプレイヤーが参加できるローカル5G市場において、高性能・低コストな5G基地局開発への期待は非常に大きい。

5Gの事例取材においては「基地局事例」も大いにありうるだろう。設置容易性や導入コストはもちろん、エッジコンピューティングやローカル5Gとの親和性など、デジタルトランスフォーメーションを支援するポテンシャルをどれだけ秘めているか? さらに展開済みの基地局の保守運用や相互連携を図るソリューションは用意されているか? 5GがIoTの不可欠要素となりつつある今、そのベースとなる基地局事例は、誰もが知りたいコンテンツになるはずだ。