【楽人楽酒 幻象学】浅草で呑む3 ~この鮨屋、ディープ度上級クラス

地元の呑み友達に浅草で一風変わった寿司屋があると聞かされました。
どんな店かというと、女将が一人板場に立ち、店はとんでもなく汚く、というよりあっちこっち店中に荷物やらなんやら置いていて物置状態。ただ魚だけはいいものを出すと。

ウーン、チョット気にかかります。話を聞いた2,3日後に行ってしまいました。
店構えはというと確かに古い、暖簾が無ければ廃屋(笑)。おっかなびっくり引き戸を開けて中に入ると、女将というより近所のおばちゃん風情の女性が板場に一人立ってます。
時間もまだ昼過ぎのせいでしょうか、客は私一人。
取り敢えずカウンターの前に座ると、目の前の冷凍ケースには魚が入ってません。
まずは「おばちゃん女将」にビールを頼むと、以前は客席だったのでしょうが今はどう見ても倉庫と化している所に置いてある冷蔵ケースからビールを取り出し、「おばちゃん女将」自ら給仕してくれます。

ツマミを頼むと今日仕入れた品をすすめられ、言われるままお願いすると、見るからに活きのよさそうな2、3種類の刺身を出してくれました。ナカナカうまい!

「おばちゃん女将」は話し好きらしく、いろいろ話しかけてきます。
ここら辺の地主はもともと浅草寺で、戦後、寺再建費用の為に土地を売ったこと、戦争中に犬を飼っていて、当時は食糧難でもあり、ペットを飼うなど非国民扱いだったとのこと。

また、食糧難でその犬を食べたいと言う人が結構いたこと。ある日、犬が失踪して探しても見つからないのでたぶん食われたんじゃないかと。
現状の建物を取り壊し、ビルにする予定があるのになかなか進まない…理由もわからない。
なんて、結構面白い話をしてくれます。

ビールも飲み干し冷酒を頼むと銘柄は宮内庁御用達「惣花」の一銘柄のみ。
大正天皇、昭和天皇の即位式をはじめ、天皇・皇后両陛下、皇太子夫妻のご成婚の折に飲まれたお酒だと「おばちゃん女将」は自慢げに説明してくれました。

つまみもなくなったので、なんかない?と聞くと、穴子のいいのが入ってるから串焼きがいいよ、と言うので勧められるまま頼むと、串に巻かれた穴子の塩焼きを出されました。
珍しいので聞くと昔からある焼き方らしく、このやり方で出す店は最近少なくなったとのこと。私も初めての体験。
肝心の穴子はふっくらとした焼あがりでこれもナカナカの味でした。

宮内庁御用達のありがたい冷酒を3杯ほど呑んでスッカリいい気持ち。
そろそろ帰り支度を始める私に「おばちゃん女将」曰く、

「来週あたりはいいシャコが入るから、うちのシャコはそんじょそこらで食べられないよ」。

そう言われれば行かない理由もないし、来週の訪問を約束して店を後にした次第です。

刺身類はウマイ!!
「おばちゃん女将」の会話を楽しめる方は是非!!
お店のなかがチョット魚くさいことも相まって、私の中でディープ度上級クラスの店です(笑)

(写真はイメージです)