5G国際シンポジウム2020レポート

有明TFTホールで開催された総務省主催の「5G国際シンポジウム2020」初日に参加してきました。基調講演では5Gモバイル推進フォーラムの吉田会長が登壇し、5G推進のために「セキュリティ調査研究委員会」「地域委員会」を新たに設置したことを紹介。国土地理院の2次メッシュに基づき、日本全国を10キロ平方メートルのメッシュに分割し、そこでの基地局整備率を50%にすると話しました。2年以内(2022年)までに全都道府県での5Gサービス開始を目指すということです。

また総務省主導で過去3年に亘り行われてきた5G総合実証試験は本年度が最終年度となります。特に地方課題解決に重点を置き、応募総数785の中から選ばれたプロジェクトが進められてきました。そこでは大手通信事業者だけではなく地域企業とのコラボレーションも多く見られます。

5Gの3大スペックである「mMTC(多数同時接続)」、「eMBB(高速大容量通信)」、「URLLC(超高信頼低遅延)」が様々なイノベーションを可能にすると吉田氏は話しました。昨年末に免許申請の受付が始まったローカル5Gについて、先日富士通に対して初交付されたことを述べ、ローカル5Gが今後、無線LANよりも安定した高信頼の通信を提供し多くの産業にメリットをもたらすだろうと述べました。

米ベライゾンによる5G展開

次いで登壇したのは米ベライゾン社のSumeet Singhバイスプレジデントです(会場では個人のスマートフォンを用いた同時通訳が提供されました)。 Sumeet氏はまず5Gの8つの重要機能、「ハイスピード/高スループット(1平方キロ当たり10TB)/モビリティ/コネクテッドデバイス/サービス実装(SDN)/エネルギー効率/低遅延/高信頼性(99.999%)」について触れました。

そして今後は5Gの基本アーキテクチャーである「ファイバー、スペクトラム、SDN、マルチアクセスエッジコンピューティング(MEC)」がカギを握ります。パブリックMECとしてAWSとのパートナーシップが進んでおり、デベロッパーエコシステムが出来上がりつつあると話しました。

アメリカではすでに34の都市、24のスタジアムやアリーナ(NFLなど)で5Gが整備されており、現在も拡大しています。ベライゾンは家庭用に「5G HOME」をローンチ。今後はヘルスケア、スマートリテール、物流、製造といった分野での展開を図っています。その研究開発のために「5G LAB」という組織を立ち上げ、次代を担う「インテリジェント・エンタープライズ(知性・知能により成長する企業というべきか)」を、AI、データアセットの面から支援していく考えです。

ベライゾンのビジネスの核となる通信プラットフォーム「ORION(オライオン)」は、すでに世界7か国で展開され、1億6600万の加入者を誇ります。同社は今後「MEC AI プラットフォーム for 5G」を武器に、5Gソリューション・サプライヤーとしてのプレゼンスを高めていきます。 Sumeet氏は最後に、「5Gビジネスは日本にも非常に大きな機会がある。そこで生まれたイノベーションは日本だけではなく世界にも貢献するものになるだろう」と話し、講演を終えました。

先端ICT活用をあらゆる面で展開する山口県

続いて登壇したのは山口県の村岡知事です。「地方におけるICTの取り組みと5Gへの期待」と題し、人口減少、少子高齢化などの課題解決にいかに5Gを活用すべきかを話しました。山口県では医師の減少、介護福祉人材の不足、県土の7割が中山間地域といった課題に直面しています。そのためICTを積極的に活用し、未来に向けた新たな県づくりに意欲的です。

村岡知事はこれまで山口県で展開してきた数々の施策を一挙に紹介しました。会場ではそのバリエーションの多さに驚きの声があがりました。例えばMaaS分野では新山口駅での実証を行っているほか、県内の中小企業向けのクラウド型RPAの提供、さらにIoTでアセアン地域に海外展開を図り、 高級ホテルの浄化槽のメンテナンス 遠隔監視を山口県内から行う計画もあります。

スマート農業では衛星から小麦の畑を監視したり、トラクタ自動運転、営農管理システム、水管理システム、リモコン式除草機、収量コンバインなどトータルでの農業効率化と省力化の実証に取り組んでいます。これらはすべて5Gの恩恵を受けるけるものでしょう。

JAXAが山口県に拠点を作り、県と共同で衛星による「ため池」の把握などの実証も行っています。教育分野では「GIGAスクール構想」の推進や、「松下村塾のVR体験」を提供し児童に歴史の学びを提供する試みも行われています。民間では日本酒「獺祭」の旭酒造が取り組んでいる「日本酒製造AI」の事例も紹介されました。

山口県ではドコモとコラボレーションし、産業振興・地域振興を目指しています。特に「へき地医療遠隔サポート事業」に注力しています。ほかにも全国の中でも製造業の多い県としてスマートファクトリーモデルの構築を推進したりするなど、多数のプロジェクトを並行展開しています。

同県では「Society 5.0」の実現へ向けた活動を継続しています。村岡知事は最後に「5Gは特に地方において期待が高いものである」とし、講演を締めくくりました。

auと大林組が取り組んだ完成度の高い建設現場実証事例に注目

シンポジウム初日の後半では、5G総合実証状況のセッションが行われ、総務省が主導し3年に亘り全国で実証されてきたプロジェクトが次々に紹介されました。5Gでスポーツ競技を遠隔でリアルタイム編集・放送するプロジェクトや、埠頭でのコンテナ移動を行うプロジェクト、また変わったところではNTTCOMが取り組んだゴルフ場での活用がありました。ティーショットの軌跡をAIで画像解析し、ボールの落下地点をリアルタイムに算出、プレーの進行をスムーズにするものです。

特にインパクトが大きかったのが、auと大林組が取り組んだ建機の遠隔操作実証です。山間の実際の建設現場に機能の異なる3台の建機を配置し、それらをすべて600メートル離れた制御センターから、5Gを用いてリモート制御します。実証では、3台の建機がスムーズに連携し、整地を行っている様子が紹介されました。建設現場の担当者からは「これまでも災害時の無人建機運用はあったが、このように通常時の運用も可能になると、人材不足の中で作業効率化が計れるだけではなく、安全な環境から建設現場に参加できることで、より多くの人材が建設業界加わるチャンスになるだろう」と話しました。

セッションではURLLC(超高信頼・低遅延)の実証事例が多く紹介され、初日は幕を閉じました。今年後半には5Gの実証が次々に「実際の運用」に転化し、一気に産業5Gが花開く予感がします。そこでの情報発信として、5G導入事例制作の側面から、経済社会に貢献できればと思います。