アジアでのコンテンツビジネスを考える

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スカルノハッタ国際空港から市内へ向かう高速道路で、突然タクシーの運転手が路肩に車を止めると、やおらヘッドライトの前でペットボトルの水で顔を洗い始めた。
俺が乗っているタクシーだ。おいおい、何をやっとるんじゃ?! そんな幕開けで、7月の末にジャカルタに4日間行ってきた。今後のビジネスモデルの一つとして、アジアでの展開を模索している。

アジア市場×コンテンツプロデュースのニーズはどこにあるか

ジャカルタでは知人の紹介で、地元の法人向けメディアの担当者や、工業団地の物件開発を手掛ける社長さんらに会って情報交換をしてきた。それぞれから興味深い話が聞けたが、まずシンプルな結論としては、“日本でやっている導入事例制作サービスをそのままアジアで(例えばインドネシアで)展開するのはハードルが高い”ということだ。

インドネシアでは、工場などの取材にあたっては特別なビザがいる。また、現地法人を設立する場合、資本金として30億ルピア(日本円で3000万円くらい)が必要だ。単純に“インドネシア支店作りました”では、あまりにリスクが多く、投資がかかりすぎる。かといって、取材の度にスタッフを東京から派遣していてはコストが割に合わない。

そもそもIT・製造業の事例取材(+事例以外も含めたコンテンツ制作と情報発信)のニーズはあるだろうか。これについてはインドネシアでは、追い風の状況にある。フリーペーパー「ライフネシア」担当者も、「じゃかるた新聞」担当者も同じことを言っていたが、広告出稿ニーズの第1位は「ITソリューション」だそうだ。続いて「人材」「不動産」。インドネシア企業間で(日系企業含め)、IT導入が拡大傾向にあるのは間違いない。そこには、事例制作やコンテンツ発信ニーズはあるだろう。

動画の情報発信ニーズに応えるリモート取材+バイリンガル編集

「ライフネシア」担当者によれば、現地企業の動画による情報発信ニーズは高いという。1つのビジネスモデルとしては、「動画の撮影はセルフで、編集と発信は日本で」という、ハイブリッド型のコンテンツプロデュースだ。前述の通り工場内などでの取材は手続きが煩雑なることから、動画についてはスマートフォンなどでクライアント自身が撮り、それをインターネット経由で送ってもらい、日本で編集し、ウェブで情報発信と集客をする。場合によってはテレビ会議でインタビュー取材してもいい。

編集した動画には日本語字幕・英語字幕を付けてYouTubeなどにアップ。現地⇔現地、現地⇔日本と両方に対する情報発信に使えるわけだ。特にインドネシアでは、一般にPCは普及しておらず、スマートフォンが主流。近年では高速なLTEも整備されつつあるので、スマホで手軽に見られる動画プロモーションは大いにウケそうだ。

もう一つ、プラスの要素としては、インドネシアは親日国家で、特に日本の技術や製品(日本ブランド)に対しての信頼感が圧倒的だ。これはおそらく、コンテンツの品質についても同様で、日本企業がインドネシアで、IT・製造業向けのコンテンツビジネスを展開する上で、アドバンテージになる。「じゃかるた新聞」担当者は、まだまだジャカルタで高品質なウェブサイトを制作できる業者は少なく、もし日本企業がそこをリードして事業を起こせば、大いに需要があるだろうと語っていた。
(余談になるが「じゃかるた新聞」の目下の悩みは、インドネシア在住の電子版購読者が増え、本誌の購読数が伸び悩んでいることだそうだ。何だか日本の新聞各社に似ている)

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ジャカルタは慢性的な交通渋滞。渋滞の隙間をバンバンスクーターがすり抜けていく。MRTという地下鉄を建設中だが、開通はまだ先のこと。

 

インドネシア国内で人材育成に情熱を燃やすK氏とO氏

ジャカルタ滞在後半で会ったのは、インドネシアの工業団地開発を手掛ける社長のK氏だ。K氏の手掛けるブカシ工業団地には、160社ほどの日系企業が入居(?)しており、なお増加中だという。工業団地はひとつのコミュニティになっており、周辺には住宅地が造成され、映画館や病院もある。

K氏が近年の事業の一つとして始めたのが、現地エンジニア人材の育成だ。何と工業団地内に職業訓練高等学校を作ってしまった。今年第1期の卒業生約200人が巣立ち、工業団地内の各企業で働き始めている。K氏の想いは、人材育成を通じてインドネシアの発展に貢献したい、というものだ。日本人であるK氏がインドネシアで起業に至った経緯は割愛するが、彼の人材育成の事業ビジョンには大いに感銘を受けた。

もう一人、やはりインドネシアでの人材育成を推し進める社長のO氏にもお会いした。彼の手掛ける人材育成は、いわゆるCAD/CAMの分野だ。インドネシアにはほとんどの日本の製造業が工場を持ち、一大製造拠点となっているが、設計や開発といった上流工程はまだまだ日本国内にノウハウと人材が留まっている。インドネシアは2億4000万の人口があり、今後内需拡大が見込める国だ。O氏の構想は、内需に応えるには距離感の圧倒的に短いインドネシア国内での設計・開発が不可欠だと言う。その考えには大いに共感を覚えた。(なお、O氏の本業はインドネシア進出を図る企業の進出支援・コンサルティングである)

余談だが、K氏と会食に行った中華レストランで、たまたまO氏とばったり鉢合わせ。がっちり握手し、トイレの場所を教えてもらった。

アジアでビジネスを展開するなら、”プラットフォーム型”で

アーキテクチャーのような少数精鋭型企業が人海戦術でアジア展開するのは難しい。ブレイクスルーは「ウェブ活用」×「プラットフォーム型」である。ウェブによる情報発信ならば、前述のリモート取材も含めて、国境とコストの問題をクリア可能だ。そして、単にコンテンツをプロデュースするだけでなく、その「発信」と「集客」までを担う何らかのプラットフォームを持てれば、大いにビジネスモデルとしての発展が期待できる。ここで、日本ならではのきめ細やかなクリエイティブや、コンテンツのアフターサービスが重要な差別化要因になってくるだろう。

工業団地全社が情報発信が行える「工業団地ポータル」なども面白そうだ。そこに動画での情報発信をプラスし、バイリンガル/スマートフォンに対応したウェブサイトを、「サービス」として提供する。今後、インドネシアから日本に進出する企業があれば、その際の情報発信/プロモーション支援もできるだろう。

なんだか、ビジネスアイデアをまるっと書いてしまったが、計画を実行に移す上では、現地での人脈・つながりが欠かせない。その意味では、今回のインドネシア視察は大変中身の濃いものであった。アーキテクチャーのグローバル展開については、折を見てこの「事例制作ログ」で紹介していきたい。

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インドネシアのプラグはC型と言われるもの。ホテルのWi-Fiは遅く、ネットインフラ事情はまだまだだ。

 

最終日朝4時--。ホテルのロビーで待っていたが予約していたタクシーが来ない。結局ホテルのフロントの友人らしき現地の人に、白タクで送ってもらった。空港まで35万ルピア(約3500円)は、深夜料金と思えばリーズナブルか。