デジタルツインの世界

「デジタルツイン」というキーワードが各所で見られるようになった。例を挙げれば、ある生産工場において、現実の生産ラインと全く同じ”仮想の生産ライン”をコンピュータ内に構築し、リアルとヴァーチャルの間で相互にフィードバックを行う仕組みもその一つだ。


工場の生産ラインの組み換えは、現地現物で行うと往々にして”手戻り”が発生する。また、組立プロセスごとに人を何人配置するかも、実際にやってみると”遊んでしまう人”が出たりする。

生産ラインのデジタルツインが構築されていれば、こうした試行錯誤を、現実の工場に手を入れることなく、コンピュータ上で何度も素早く試行錯誤ができる。

さらに、ローカル5Gによって、生産ラインのあらゆる機器からのフィードバックをリアルタイムに得られるようになれば、作業者が現地に立ち会っていなくても、VRゴーグル経由でラインの作業や管理監督ができるようになる。危険な物質を扱う場合なら、遠隔操作で組立もできる。

こうした現実の構成・仕組みと同一の情報をバーチャルの世界に持つ「デジタルツイン」は、これからますます一般的な概念になっていくだろう。これは人間の生活そのものも同様で、その人が「いつ・どこで・何をしたか・資産はいまどうなっているか・家族はどうしているか」などの情報は、法規制の問題は多々あれど、「人生のデジタルツイン」として上限なしに収集と蓄積が可能だ。

自分のポートフォリオを常にコンピュータ(クラウド)上において置き、あらゆる現実の行動をフィードバックし続けることも超強力なワイヤレスネットワークの5Gなら可能になる。極端な話、スマートフォンやスマートウォッチなどのデバイスを介して、あらゆる発話とバイタルの記録を一生分残すこともできる。

こんな想像を広げていくと、「お墓」の概念の進化に行きついてしまう。お墓は100年分のライフログが集積されたストレージになり、故人のすべての行動と記憶が蓄積され、「故人AI」として、いつでも会話ができる世界は、ぜんぜん妄想ではない。

今回は5G事例というテーマから少しずれてしまったが、デジタル革新の新たなフェーズに、産業と暮らしが差し掛かっていると言えるだろう。